初めてのウルトラトレイル。香港で100kmのレースに参加してきました。
部長の榎本です。
1/23-24に開催された「Vibram HK100」に参加してきました。
舞台は香港、距離は100km、制限時間30時間のウルトラトレイルランニングレースです。
香港でトレラン? 香港に山なんてあるの? と思った方、こちらの映像をご覧ください。2015年大会のダイジェスト動画です。
高層ビルが建ち並ぶ大都会というイメージの香港ですが、ちょっと郊外に出ると山が多くて自然が豊か。登山やハイキングといったアウトドアアクティビティが盛んで、最近はトレイルランニングも人気だとか。
僕は上の映像を見て「自分も走ってみたい」と思い、いろいろ調べていたらMMA渋井さんのレポート記事を発見。
これを読んでさらに興味が湧き、香港なら近いからサクッと行けていいなと考え、エントリーを決めました。
ランニング歴3年、トレイルランニング歴6ヶ月の自分にとって、100kmという長い距離のレースはロードもトレイルも含めて今回が初めて。ただ、コース表を見ると後半の一部を除いて全体的にそれほどアップダウンが無く、走りやすそう。制限時間も長いので、よほどのことがなければ完走できるかなあと、わりと楽観的に構えていました。
これがそのコース表。ご覧のとおり、前半50kmまでは比較的平坦。本格的な山岳地帯に入る後半50km以降はアップダウンが続き、最後の90km以降に香港最高峰の「大帽山(Tai Mo Shan)」がまるでラスボスのごとくドーンとそびえています。
あと、エントリーを決めた理由のひとつに、「香港は冬でも暖かい」というのがありました。1月の香港の平均気温は15〜20℃くらい。実際、上の映像を見ると、多くの人が半袖短パンという軽装で走っている。クソ寒い日本を抜け出して、香港のトレイルを汗をかきながら爽快に駆け抜けるのも悪くないな・・・そんなイメージを抱いていたわけです。
ところが……
そこで待っていたのはなんと、
香港では60年ぶりという記録的な大寒波!!
冬でも暖かいという見込みは大きく外れ、北風がビュンビュン吹き荒び、時折冷たい雨が降り、街中でもダウンが必要なくらい寒い。香港には過去に何度か来たことがあるけど、こんなに寒いのは初めて。
せっかくクソ寒い日本を脱出してきたのに、日本よりも寒いじゃないか!
天気予報によると、レース当日の天気は曇り時々雨、気温は5℃前後。しかもそれは街中での話なので、山ではもっと下がることは確実。深夜から明け方にかけては氷点下になる可能性も。レース用の装備は、雨具上下はもちろん、トレラン用のインサレーション、薄手のフリース、防風仕様のロングタイツ、厚手のグローブ、ネックウォーマーなどなど、自分としてはフル防寒のギアでのぞむことに。結果的にはそれでも足りないほど過酷な環境だったのですが。
今回は山本副部長が同行していないので前日に痛飲することもなく、レース当日は二日酔いのない爽やかな朝を迎えます。
そしていざ、レーススタート!
参加者は約1800人。すこしだけロードを走った後、登山道に入ります。しかし一本道の細いトレイルにランナーが殺到し、大渋滞が発生。
それから2時間ほど、ほとんど走れない状態が続く。トレランというか、もはやハイキング。
その後ようやく渋滞が解消し、香港の美しい山間部を気持ちよく駆け抜けていきます。
いやあ、香港のトレイル、超たのしい! 天気は良くなかったものの眺めは素晴らしく、変化に富んでいるので飽きることがない。ちなみに香港のトレイルは舗装されているところや階段が多く、全体的に路面は固めです。
日中の気温は予報通り大寒波の影響でかなり低め。しかも時折突風が吹いて、身体ごと飛ばされそうになることも。
途中で何箇所か、ビーチを走るところもありました。暴風で飛んできた砂が顔面にビシビシ当たって痛い。
エイドステーションはほぼ10kmおきに合計9箇所あり、水や食料などを補給できます。
エイドでは食料が充実していたので、ジェルは最小限でよかったかも。そして山で食べる出前一丁のうまさは異常。エイドごとに食べて、合計4個ほど完食。
そんなこんなで前半の50kmが終了。朝8時にスタートして、中間地点のエイドに到着したのは夕方5時半くらい。10時間以上も走り続けたのに、感覚的にはあっという間。疲労はほとんどなく、脚も絶好調。これなら完走は間違いないな。24時間以内で完走すればもらえるというトロフィーは確実にゲットできそうだな。そう思えるほど余裕がありました。最後にまさかのトラップが待ち受けていることは、このときは知る由もありません。
中間地点のエイドでは、スタート前に預けたドロップバッグを受け取り、着替えたりシューズを履き替えたり一服したりしているうちに、あたりは一面真っ暗に。ここから先はヘッドランプを装着して走ります。
これ以降は暗いので写真はあまりありません。
ヘッドランプを装着してのナイトラン、これがまた最高に楽しい。野生に戻った感じ。
山の上から街を見下ろすと、100万ドルの夜景が。自分の足で登った山から見るとまた格別。
コースはなだらかな前半50kmとは一変し、アップダウンのきつい山岳地帯に。険しい上り下りを繰り返し、息を切らせながら、先へ先へと進んでいく。そして時間が深くなっていくにつれて、気温は急降下。風も強くなっていく一方。稜線に出ると、強風というかもはや暴風。香港の山は高い木がほとんどないので、抜けが良くて眺めがいい反面、風の影響をもろに受ける。風に身体を持って行かれ、滑落寸前になってヒヤリとする場面も。
真っ暗な夜の山を延々と走った末、エイドの灯りを見つけると、心底ほっとします。
温かい食べ物に身も心も癒やされる。
そしてスタートから20時間以上が経過した翌朝4時40分頃、90km地点の最終チェックポイントCP9に到着。
さあ、あとはラスボスの大帽山が待つのみ。もうひと山越えればフィニッシュです。
水や食料などの補給を済ませて、いざゴールに向けて出発すると、100メートルほど進んだあたりで雨と風がさらに強くなり、冷え込みも一気に厳しくなってきた。この先の大帽山山頂はここからさらに500メートル以上標高が上がるので、ここでこの状況なら山頂付近は大変なことになっているはず。これ以上進んだら、本気でやばいかも……! そんな予感がしたので、いったんエイドに引き返し、しばらく雨宿りをすることに。しかし一度動きを止めてしまうと、体温がどんどん下がっていくのがわかる。
ここにずっととどまるわけにもいかないので、そろそろ出発しなきゃ。でも、雨が強くて屋根の外に出られない……そんな逡巡を繰り返しながら、厳しい寒さのなか、エマージェンシーシートを全身に巻きつけて暖をとり、天候の回復を待ちました。
そうこうしているうちに、運営側から無情な報せが。
「大帽山の山頂付近が凍結していて危険なため、ここでレースは中止にする」
がーん……。
30時間の制限時間を待たずして、自分にとって初のウルトラトレイルチャレンジは終わりを告げました。
自分と同様、90km地点の最終チェックポイントで足止めを食らったランナーたち。その数はどんどん増えていき、屋根の下は押しくらまんじゅう状態に。暖房設備もなく極寒の状況のなか、収容車が来るまで3時間以上待ちました。それが今回でいちばんつらかった。
同時間帯にゴールした人に話を聞くと、この90km地点から先の寒さと凍結は想像を絶するもので、トレイルには霜が降りたうえに雪もちらつき、最後のロードの路面はアイスバーン状態でツルツル滑って危険な状態、さらに路面だけでなく着ている服までもがみるみる凍っていき(着氷という現象らしい)、ジッパーが凍ってザックが開けられないほどだったとか。また、報道によると、早朝の大帽山山頂の気温はマイナス6℃。低体温症者や行方不明者が多数出て、その捜索と救助のため、山頂付近やフィニッシュエリアには警察、消防、救急、ヘリコプターが続々と出動、しかもそこに香港では極めて珍しい霜を見物に来た登山客も入り混じり、そっちでも低体温症の重症者が続出、現場は騒然、大混乱となっていたそうです。
辛苦哂各位消防及救護師兄,以及其他部隊嘅救援人員!
Posted by 香港消防新聞 on 2016年1月24日
こうなってしまうともはやレースどころではないですね。
自分は最終エイドからこのクルマに乗って街まで戻ってきました。
救急車です。最終エイドでいっしょだった日本人があまりにも調子悪そうに見えたらしく(実際はまあまあ元気だった)、救急隊員からこれに乗れと指示され、自分もその付き添いとして乗ることに。救急車なんて日本でも乗ったことないのに、まさか海外で乗ることになるとは。
今回走ったルートをNIKE+で表示。キロ数がこんなに詰まっているのは初めて見た。
そんなわけで、思わぬかたちでの幕切れとなった初めてのウルトラトレイル。完走できなかったのは悔しいけど、山頂付近の壮絶な状況を鑑みると、最終エイドで踏みとどまった自分の判断は正しかったと思うほかありません。無理を押して出発していたら、寒さと凍結で立ち往生して洒落にならないことになっていたかもしれない。レース中止を決めた運営の判断も適切だったと思います。ともあれ、トレイルランニングは危険と隣り合わせのスポーツであることを再認識しました。
ただ、天候のことは仕方がないとはいえ、明らかに自分の実力が不足していたこともまた事実。これに懲りずにまた力をつけて、来年またリベンジしにいきたいと思います。
ちなみに、レース後に体重を測ったら、減るどころかむしろ微妙に増えていました。ウルトラトレイルにダイエット効果は期待できないようです。
また折を見て、今回活用したギアについて書きます。